「M&A実務の基礎シリーズ」第2弾として、「M&Aの成功要因」を発信していきます。
第1弾の「M&Aの一般的な流れと取引にかかる時間」についておさらいしたい方は、下記のリンクよりご覧くださいませ。
M&Aの成功に影響する要因
M&Aの成功に影響する要因は様々ありますが、主な要因は次の4つです。
- 経営戦略・事業戦略とM&Aがリンクしているか
- 十分なDDが実施できたか
- 納得がいく最終契約になっているか
- 統合後のPMIが適切におこなているか
それぞれみていきましょう。
経営戦略・事業戦略とM&Aがリンクしているか
時々勘違いされる経営者がいらっしゃるのですが、M&Aは目標を達成するための手段でしかありません。そのため、そもそもM&Aをゴールと解釈していると事業の成長は見込めないでしょう。
自社の目標の実現に向けての経営戦略・事業戦略を策定し、M&Aが本当に必要かどうか今一度熟考する必要があります。
十分なDDが実施できたか
クロスボーダーM&Aや異業種統合の場合は、かなり入念にDDを実行しないと、M&A後に問題が発生してしまうことがあります。
買収先企業の財務状況や取引実態が報告と異なっていたり、経営陣の意思が固まっていなかったりと、M&Aを失敗に導く致命的な問題が発生するケースが意外にも少なくなりません。
十分なDDを実施するためにも、時間に余裕を持ったり、あらかじめ懸念事項をリストアップしたりして、適切な調査を行いたいところです。
ここで、DDの対象範囲を一度まとめておきますので、ご参考ください。
財務DD
対象会社の正常収益力と実態純資産を明らかにするために、過去の決算書を分析します。会計士などの専門家が対応します。
正常収益力とは、PL面において、正常な営業活動を行なった場合に得られる収益力です。一時的な要因や特別的な要因を修正した上での収益力と言い換えることができます。
実態純資産とは、BS面において、計上されている資産負債を時価ベースで評価したり、現在計上されていないが計上すべき資産負債を計上した上での実態としての純資産です。
税務DD
対象会社の税務リスクを把握するために、税務申告書を分析します。税理士などの専門家が対応します。
税務リスクは、過去の税処理ミスや、税務当局の判断によって指摘事項となりうるような事柄です。
法務DD
法務リスクを把握することを目的に、議事録、契約書、登記関係を調査します。弁護士などの専門家が対応します。
法務リスクとしては、契約の不備、法定書類の不備、訴訟や紛争といったことが挙げられます。
人事労務DD
人事労務リスクを把握することを目的に、人事規定、従業一覧、給与台帳、勤怠データなどを分析します。弁護士や社会保険労務士が対応します。
人事労務リスクには、残業代の未払いや管理体制の不備等があります。
ビジネスDD
事業の将来性とシナジー把握を目的に、事業環境を分析します。買手やコンサルティング会社が対応します。
納得がいく最終契約になっているか
最終契約に不満を持つかどうかは、買収価格と表明保証等の定性的な条文内容の2つが論点となります。
買収価格について
買収価格についてですが、M&Aあくまで投資でありいずれ回収することを考慮すると、高い価格で買わされるぐらいなら諦めたり価格交渉をしたりする必要があります。
極論ですが、売手は売却すれば終わりのパターンもありますが、買手は継続的に買収会社・事業に携わっていくので、高値掴みするわけにはいかないのです。
表明保証について
表明保証はセンシティブな問題でありながら、両者が極めて重視する事項であるため慎重に協議を重ねる必要があります。
通常、買手は表明保証を網羅的に規定しようとしますが、売手のリスク増大を意味します。逆に、表明保証の簡略化や省略は買手のリスク増大になります。
非常に難しい部分ですが、M&Aによる買手の投資回収を妨げかねない要素はしっかり盛り込み、売手のストレスになる過剰な部分は盛り込まない形がベストと言えます。もちろん、ケースバイケースではありますが。
統合後のPMIが適切に行われているかどうか
M&Aで成功するためには、定量的に評価可能なシナジーが発揮されているかどうかがとても重要です。買収価格にも、シナジーは織り込まれています。
そのため、投資をしっかり回収するためには、シナジーを発揮できる環境構築が重要であり、PMIの設定や実行が肝要なのです。
M&A後にシナジー効果を早期に実現するために
M&A案件をクロージング後にシナジー効果を早期に実現させるために重要な要素は以下の3点です。
- 「人」の選び方
- 「目標」の設定方法
- 「時間」での目標意識
○「人」の選び方
人については、まずは対象会社の事業に精通していることが大前提でありながらも、経営能力がある有能な人材を送り込むことが重要です。
対象会社の従業員と信頼関係を構築している幹部社員を選定できればベターと言えます。
○「目標」の設定方法
目標の設定方法ですが、まずはシナジーの実現を目標とすれば良いでしょう。
シナジーには売上シナジーとコストシナジーがあり、即効性があるのはコストシナジーです。営業所やシステムを統合することにより、固定費を大幅に削減することができます。まずがここを目指すと良いでしょう。
その上で、削減できたコストや余ったリソースをフル活用することで、売上シナジーを全力で追求すると良いでしょう。
早急に肥大化を目指すのではなく、一度スリム化して筋肉質な経営基盤を築いた上で、筋力増強を目指すイメージです。
○「時間」での目標意識
M&Aの直後はある意味非常事態です。組織崩壊や売上減少が少しでも発生する前に、統合計画をいち早く実行して適切なマネジメントを実行する必要があります。
M&A後の組織風土の融合方法
PMIにおいて、人事制度やシステム面などのハード面が重要視されがちですが、組織風土などのソフト面も重要です。PMIにソフト面もしっかり考慮されていないと、シナジーが発揮できないからです。
融合の進め方としては、売手の価値観や特徴をしっかりと理解し、自社との違いを認識することが肝要です。そのために着目すべき点は以下の通りです。
- 経営理念、ビジョン
- 創業者・幹部人の言動
- 会社の歴史
- 組織体制
- 評価基準
上記の違いを認識できたら、会社の融合を進めるための施策としては以下の方法があります。
- 再度理念や価値観を明文化
- 双方の組織の積極機会の増加
- 価値観、評価軸の共有
何よりも、売手の価値観や歴史を深く理解することで、それを土台に融合を進めていくことが必要不可欠だと言えるでしょう。
まとめ
今回は「M&A実務の基礎シリーズ」第2弾として「M&Aの成功要因」についてお伝えしました。
今後もM&A実務に関する情報を発信していくので、金融営業の方は是非ご参考くださいませ!
コメント