岸田首相の発言をきっかけに、自社株買いに対する関心が高まっています。
この記事では、自社株買いの仕組みや特徴・株式市場に与える影響ついて解説します。
「自社株買いガイドライン」への言及で日経平均株価が下落
12月14日の衆院予算委員会で、岸田首相が企業の自社株買いに関連してガイドラインをつくる可能性に言及し、日経平均株価は一時300円以上下落しました。
「自社株買いについてはそれぞれの企業判断に基づいて状況に応じて判断していく問題ではありますが、私自身、多様なステークホルダーを重視して持続可能な新しい資本主義を実現していくということから考えました時に、ご指摘の点は大変重要なポイントでもあると認識を致します。企業のさまざまな事情や判断がありますので、画一的に規制するということは少し慎重に考えなければいけないのではないか。個々の企業の事情などにも配慮したある程度の対応、例えばガイドラインとか、そういったことは考えられないだろうかということは思います。」
引用元:Bloomberg
こうした岸田首相の自社株買いをめぐる規制発言に対し、マーケットでは不信感が高まっています。日本企業の株主還元は欧米から遅れており、日本でもようやく環境が整ってきたと考えられていました。
しかし、政府によって自社株買いが制限されることになれば、日本株にとって致命傷になりかねないからです。自社株買いの規制に本気であれば、大きなネガティブインパクトを市場に与えかねません。
海外投資家は日本企業の株主還元はまだ低いという認識があるので、ガイドラインの導入で自社株買いが減れば、市場への失望感が広がるからです。
米国でもバイデン政権が自社株買いの規制を行おうとしています。米国ではボーイング、スターバックスなどが多額の借入をして自社株買いを実施し、債務超過に陥るような極端な例が目立つからです。
しかし、日本では借入をして自社株を行うような極端な手法は会社法で禁じられています。株式市場を敵視するような政策は、マーケットにとって悪材料でしかないのです。
自社株買いとは
自社株買いとは、上場企業が自らの資金を使い、株式市場から自社株を買い戻すことです。自社の株式を購入してその株式を消却することで、会社の発行済み株式総数が減少し、1株当たりの価値は高くなります。
そして、1株当たりの当期純利益も増加するので、自社の利益の一部を株主に支払うのと、同じ効果があるのです。
ただし、購入した株式を消却するかどうかは企業側に任されており、会社が「金庫株」として株式のまま保有ケースがあり、株式市場でポジティブな材料と判断されない可能性がある点には注意が必要です。
コロナ禍からの回復で企業の自社株買いが増える
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により、自社株買いを発表する企業は増えませんでした。しかし、コロナ禍からの回復が進んでいるので、自社株買いを再開する企業が増えています。
12月17日にはオリンパス(7733)が、自社株を除く発行済み株式の1.24%にあたる300億円を上限した自社株買いを発表。株主還元強化を好感した買いが入りました。
ただ、投機筋の動向には注意が必要です。大規模な自社株買いを設定した企業に対し、先回りの買いを入れる傾向があるからです。企業の自社株買いが続いている間の株価は堅調ですが、短期筋は自社株買いが終了すると株を売却します。
短期筋が注目するのは、自社株買いで1株当たりの利益が増えることではなく、企業の株の買い付けで短期的に株が上がることだけです。自社株買いによる投機筋の動きには、注意が必要なのです。
事業会社は日本株の最大の買い手
2021年4月以降の日本株は、事業会社が最大の買い手になっています。日銀が年間6兆円としていたETF(上場投資信託)の買い入れ額目安を下げ、主要な買い手ではなくなったからです。
つまり、事業会社の自社株買いを制限すれば日本株の買い手がいなくなり、株価が下落するリスクは高まるのです。
米国では企業の積極的な自社株買いが、成長と分配の好循環を生んでいます。米国の個人金融資産の約50%は株式とミューチュアルファンド(投資信託)で占められており、株高が家計の資産増につながるからです。
そして、家計の資産増が消費を押し上げ、それが企業収益の拡大につながるという好循環につながっています。
自社株買いによる株価下支え効果も
自社株買いには、東証の立会外取引「ToSTNeT(トストネット)」での買い付けと、通常取引での「市場買い付け」の2種類があります。
ToSTNeTとは?
東京証券取引所で立会時間外に行う取引。
通常の立会取引では株価を乱高下させる要因になりかねない大口取引やバスケット取引などに対応できるようにするために設けられた。
立会外取引は取引時間中に行われるわけではないので株価に与えるインパクトは小さくなりますが、普通の取引での市場買い付けは取引時間中に行われるので、株価に与える影響は大きくなります。
東海東京調査センターの調べによると、2021年度の自社株買い実績(10月末時点)の市場買い付け額は2兆3852億円となりました。
これは、2019年の3兆4107億円、2016年の2兆3910億円に次ぐ規模まで膨らんでいるのです。11月にはソフトバンクグループが最大1兆円、三菱UIFJフィナンシャルグループとトヨタ自動車が、最大1500円億円の自社株取得枠を設定するなど、本年度の設定額は6兆円を超えています。
こうした自社株買いによって、株価が下支えされるという期待が高まっているのです。
まとめ
自社株買いには株価の下支え効果があり、株式市場は自社株買いの発表を好感します。そして2021年度は、事業会社が最大の買い手になっています。
自社株買いを規制すると買い支え効果がなくなり、最大の買い手である事業会社による買いが減ってしまうので、株式市場にとってはマイナスです。
実際に自社株買いに対する規制が入るのかどうかは、今後の株式市場の懸念材料になるでしょう?
コメント