日本でちょっとでも株式市場に興味を持っていれば、ほぼ間違いなく聞いたことがある言葉が日経平均株価です。
株式会社日本経済新聞社の「日経平均株価算出要領」(以下:算出要領)によると、日経平均株価は
日経平均株価:日本を代表する株価指数として世界中で利用されている 。東京証券取引所第1部に上場する225 銘柄を選定し、その株価を使って算出する価格平均指数である。日経平均を構成する225 銘柄は、市場流動性やセクターバランスをもとに、定期的に見直される。長期間にわたる継続性の維持と産業構造変化の的確な反映という二つの側面を満たしながら、市場流動性の高い銘柄で構成する株価指数を目指している
株式会社日本経済新聞社
このような指数です。この説明文を理解できているでしょうか?
実はこの日本で一番有名ともいえそうな株価指数は、少なくとも筆者にとっては「いびつな指数」です。その理由は後述します。
実は2021年10月1日にこの算出要領は更新されています。知っているつもりでも改めて確認してみましょう。
いびつな理由①:1銘柄のウェイト
価格平均指数と呼ばれるのは、株価指数の算出方法の一つで、「株価」が指数の算出に使われるという意味です。ちなみにいずれ独立した記事にするつもりですが、TOPIXが時価総額加重平均方式を採用しているのとは、大きな違いがあります。厳密にいうとTOPIXが時価総額加重平均方式を採用しているという表現も間違ってはいないものの言葉足らずではありますが、ここではこれ以上触れません。
最新の算出要領で導入されたのが、「株価換算計数」です。算出要領の5ページには以下の式が掲載されています。

株価換算計数は、指数の算出に用いる採用株価の水準を調整する値です。
原則として1を設定しますが、7月末時点で当該銘柄の株価が日経平均構成銘柄の採用株価合計の1%を超えている場合は、0.1~0.9の値(0.1刻み)を設定します。なお、大規模な株式分割や、株式併合がある場合等は株価換算計数が調整されることになっています。
この株価換算計数の前身は「みなし額面」と呼ばれているものでした。2001年10月の商法改正で廃止されるまで、株式にも額面がありました。
額面が50円の場合は、会社を設立して株式を発行した時、投資家が1株あたり50円を支払って株式を購入したことを示していましたが、その後いくつかの理由があって、額面株式は廃止されすべて無額面株式になったのです。
額面制度廃止までの日経平均株価は、構成銘柄の株価を標準的な額面である50円の水準に調整していましたが、額面制度廃止以降は、廃止された額面制度を模したみなし額面を設定し、旧制度と同じく50 円額面の水準にあわせて調整していたのです。
株価換算係数の導入時は、その時点の構成銘柄に対して設定されていたみなし額面を基準に、調整後の株価が原則として同じ値となるように設定したのです。
つまり、2021年9月30日までの採用銘柄については株価換算計数=1で引き続き算出されています。
日経平均株価は、前述のとおり225銘柄で構成されます。
仮にすべての銘柄の株価が全部同じだとしたら、1銘柄当たりのウェイトは0.44%程度になるはずで、10銘柄なら4.4%ですが、2021年10月上旬時点の値を用いると、実際は10銘柄で全体の38%超を占めています。

このウエイトを考慮すると、日経平均株価は225銘柄で構成されつつも「指数を動かす銘柄はある程度決まっている」と言えそうで、これが筆者が「いびつな指数」と表現している理由の一つです。
一方、2021年10月1日から採用された3銘柄の株価換算計数はいずれも1未満でした。いわゆる「値がさ株」と呼ばれていた銘柄が採用されたわけですが、日経平均株価への影響度が過度にならないよう調整されたということでしょう。
株価換算計数の導入によって、今まで採用を見送られがちだった値がさ株が今後は採用されていく傾向になるかもしれません。
なお、毎年秋の定期入れ替えは3銘柄を上限にすることも新たな算出要領に導入されています。
いびつな理由②:セクターバランス
「いびつな指数」と考えているもう一つの理由は、「セクターバランス」です。
日経平均株価採用銘柄は年に1度定期的に見直されます。その際まず考慮されるのは、流動性です。
流動性の判定で候補を450銘柄に絞り込みます。流動性の判定に関しては、算出要領の3ページを参照してください。
「セクターバランス」は日経業種分類の36業種を、
- 「技術」
- 「金融」
- 「消費」
- 「素材」
- 「資本財・その他」
- 「運輸・公共」
の6つのセクターに集約し、このセクター間で「高流動性銘柄 群」に属する構成銘柄数がバランスするように除外・採用を行うことを言います。
東京証券取引所に上場されている銘柄の業種分類は東証33業種で表現されることが多いのですが、日経平均株価の世界では業種分類が異なります。このバランスを保つために、語弊を恐れずに言えば、決してパフォーマンスがいいとはいいがたい銘柄が採用されているように感じます。
例えば米国株の代表的指数であるS&P500の採用銘柄はセクターバランスを問いません。
基本的には時価総額が大きく、継続的に黒字の企業が採用されるのがS&P500ですが、日経平均株価は業績が芳しくない銘柄でもセクターバランスを理由に採用される可能性があるわけです。これが「いびつな指数」と考えるもう一つの理由です。
銘柄の採用除外は当該銘柄の需給を大きく左右する要素ですので、ぜひルールを知っておきたいことです。
以上日経平均株価を改めておさらいしてみました。
指数としてはメジャーであっても、特徴を知ると、運用のベンチマークにふさわしいかどうか考えてしまう要素があるということを知っていただけたら幸いです。
コメント