決算発表時は、実績や予想といった数字だけではなく、併せて発表される傾向があるコーポレートアクションが少なくありません。
株式分割、M&A、自社株買いあたりが代表的でしょうか。
マーケットが軟調な局面が続いていると、自社株買い発表が多くなる傾向があります。
この記事では自社株買いのルールと意義をテーマにします。
自社株買い発表に至るまでのルール
自社株買いを規定しているのは会社法です。会社法155条が自己株式取得の例を定めています。
たくさんあるのでここでは全部に触れませんが、上場企業の株主が知っておきたいのは156条1項で「株主総会」で以下の3点を決議して自社株買いを行うことができるという点です。
- 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
- 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除く。以下この款において同じ。)の内容及びその総額
- 株式を取得することができる期間(ただし1年を越えることはできない)
そして、この3つは459条1項に基づき、株主総会ではなく取締役会で決議することが可能という定款を定めることを可能にしています。
多くの自社株買い発表は、各社の定款にもとづいて取締役会で決議されることが多いです。全株主の意志を聞くという手続きが必要な株主総会よりは機動的に決議できるということでしょう。
オリックス株式会社(本社:東京都港区、社長:井上亮)は、本日開催の取締役会において、資本効率の向上および株主還元のため、会社法第459条1項の規定による当社定款第34条に従って自己株式を買い受けることにつき、会社法第156条1項各号の事項を以下のとおり決議しましたので、お知らせします。
自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ
2022年5月11日にオリックスが公表した自社株買いの例です。
確かに同社の定款34条に定めがあります。

自社株買いは現預金で行う
会社法は自社株買いを「株主に対する金銭の払戻し」という考え方を採用しています。
よって、自社株買いをしたときは、資産の部にある現預金を買った株式の対価だけ現預金を減少させるような仕訳が起きます。

ですから、自社株買いの決済は現預金で行います。
時折、純資産の部に計上されている利益剰余金で自社株買いができるとおっしゃる方を見受けられますが、株を買うことに関しては、たとえ自社株買いであっても個人投資家同様現預金が無ければ決済できません。
自社株買いを発表した銘柄を持っている株主が当該銘柄を売却したとします。
その売却取引の相手が仮に株式発行企業だとしましょう。その株主が受け取るのは現金ですね。
ですから、買う方は現金が無ければ自社株買いはできません。
自社株買いの効用
自社株買いには以下のような効果や意義があると考えられます。
アナウンスメント効果
自分で自分の株を買うくらい今の株価は安い水準だという発行体からのメッセージです。
株価の維持
たとえば大株主が売却の意思を示したとき、自社株買いで引き受けて、マーケットに出さないようにすることで、株価の下落を小規模にとどめる効果を期待できます。
株主還元
代表的な株主還元の方法は配当を支払うか自社株買いです。
配当を支払うためには、取締役会で決議するなどした後、株主に通知を出すといった手続きが必要です。
一方、自社株買いは適時開示後、決めた期間に決めた金額の枠で市場から買うといった機動力があります。
自社株買いを行うと、自己株式を減少させる効果があり、EPSを算出する株式数が減ることによって、EPSの向上を計ることが可能です。あくまでも利益が変わらなければという前提ですが。
買収防衛
市場に出回る株式数を減らせば、ほかの株主によって買い占められる株式数を減らせるため、買収防衛効果があります。
割安M&Aの原資
自己株式との株式交換でM&Aを実施する場合、M&A実施時点の時価にもよるが、安い株価で買っておいた自己株式は事実上現金と同じ価値を持ち、結果的に安い金額でM&Aが可能となる場合があります。
本業の限界
本来であれば事業に投資し企業価値を増やすべきだが、それに限界を自社で感じたら自社株買いで株主に報いようとする意図です。
最後に
少し長くなりましたので、今日はこの辺りで終了します。
次回は自社株買いアナウンスを読み解くカギをご紹介したいと思います。
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