債券分析の醍醐味は、債券利回り、つまりイールドカーブの形状を読み解くだけではなく、その形状から今後のマクロ経済や株式市場への影響を予測することです。
前記事に掲載した通り、国債を動かしている資金は政府系の資金であり、マクロ経済は政策に連動しています。
投資系メディアを徘徊していると、たまに驚くレベルのシナリオを想定している記事を見かけることがあり、私は積極的にアクセスするようにしています。
自分の見立てたシナリオと、株式相場が違う動きをした際に迅速に軌道修正を行うためには、他者のシナリオが参考になるからです。
下記でご紹介する記事は、タイトルとは裏腹に、2022年はインフレと低金利によって株式市場は大幅に恩恵を受けるであろうと述べているものです。
非常に興味深い分析からこのシナリオを想定しているので、是非とも皆様に読んでほしいです。
そんな想いから、ちょっとだけ寝る間を惜しんでワード十数ページにわたる当該記事を和訳しました。
記事を読む前に皆様にお願いがあります。この記事を書いた著者、Rida Morwaに敬意を示して下記の記事が掲載されている元リンクを一度開いていただけたら幸いです。
元記事:「Seeking Alpha」
私から当該記事に対する直接的なコメントは控えますが、皆様の参考になれば幸いです。
では、(長いですが)お楽しみください。
米国債利回りは大暴落を示唆している?
【概要】
- 米国長期金利は依然低いままであり、景気後退またはデフレが間もなく来ることを示唆しているのか?
- 市場が70年以上にわたり経験したことのないダイナミクスが散見されている?
- 今日見られるような高インフレと低金利の時代に、株式市場は歴史的にどのように推移したのでしょうか?
- FRBは、今年すでにインフレについて私たちを欺いてきた?
- FRBはハト派を維持しインフレ率は高騰。 この環境で、どのような投資戦略が有効なのだろうか?
米国債利回りに注目することは、景況感を読み解く上で非常に重要です。
インフレが現在のような高水準である場合、米国債利回りから次の2つのシナリオが予測されます。
- 長期金利がインフレ率とともに上昇する場合、債券市場は健全な経済を織り込んでいるというシナリオ
- 長期債利回りは膠着、または、さらには下がっていく場合、債券市場がインフレの崩壊に伴う景気後退を織り込んでいるというシナリオ
現在10年債利回りは1.5%と頑なに低いままであり、来年は景気後退(またはデフレ)が見込まれています。大きな暴落があると予想している投資家も少なくないのです。
しかし現在、近年まれに見る現象が発生しています。
インフレ(米国の個人消費支出で測定)は10年債利回りをはるかに上回っており、大幅なマイナスの「実質利回り」が発生しているのです。
実質利回りとは?
金利を物価上昇率との関係から見たものであり、表面利回りから物価変動の影響(予想物価上昇率)を差し引いた利回りを指します。
1990年以降(過去31年間)のチャートを見てください。
今回のインフレは非常に高く持続的であり、パウエル議長でさえ「一時的」という言葉を使用するのは止めました。
10年債利回りは未だに約1.5%付近を推移しているので、「デフレに向かっているのだろうか」「不況に向かっているのだろうか」と思う方はいらっしゃるでしょう。
実はこの図の現象は非常に興味深い現象であり、米国では過去120年間に下記の3回しか見られていないのです。
- 南北戦争中
- 第一次世界大戦中およびその後
- 第二次世界大戦中および戦後
長期金利は常に正しいストーリーを提示してくれます。これをどう読み解くかは投資家次第であり、ヒントとするか無視するかは自由です。
私はヒントとして活用したいので、もう少し深く読み解いていこうと思います。
高金利時代を振り返ってヒントを得る
20年以上にわたって真実であったことが「永遠に」真実であると思い込んでしまうのは簡単です。リーセンシーバイアスと呼ばれる、遠い過去に起こったことよりも最近起こったことに影響されやすいからです。
高インフレについて考えるときも、投資家は高インフレが高金利を引き起こした1970年代、つまりインフレ率よりもほぼずっと高金利を維持していた時代をすぐに思い出します。
1970年代は、少なくとも私たちの両親が生きていた時代です。つまり、かなりイメージしやすい時代と言えます。
しかし、高インフレとは常に1970年代のような流れだったでしょうか?実は、そうではないのです。
歴史を掘り下げると、
- 1950年代半ば以降、インフレ率が10年国債利回りを上回ったケースがいくつか見られましたが、その差はすぐに解消。
- 歴史をさらに遡ると、インフレ率が大幅に上昇し、10債利回りが長期間低水準にとどまっていた時期もありました。 「実質利回り」が、今日のように大きくマイナスだった2つのケースは、第一次世界大戦と第二次世界大戦に関連
それでは、第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして今日の共通点は何なのでしょうか。
- すべてのケースとも、債務は異常なレベルに急上昇した時代。
- 債券市場は、継続的緩和政策の下にプライシングされています。よって、政府が言っているような形でインフレを抑制するのではなく、インフレに「国債を収縮させる」選択を取ると考えられる。
したがって、長期金利が現在よりも高くならないのも不思議ではないのです。
実際、債券市場が伝えていることは、私が過去数か月にわたって言ってきたことと全く同じです。
【私のこれまでの主張】
- FRBは、すぐに利上げを行うことはできず、今後もすぐは金利を引き上げない。仮に引き上げをしたとしても、それはインフレにわずかな影響しか及ぼさないであろう大して重要ではない利上げになるだろう。
- 政府は、金融システムの中に大量の流動性があることを引き続き保証するだろう。流動性のバブルは大きいままで。
第一次世界大戦と第二次世界大戦期:同様の期間に市場はどのように動いたか
私たち投資家にとって、今日のマクロ経済で何が起こっているのかを知るだけでなく、株式市場にどのような結果が反映しうるかを理解することも重要です。
この場合では、第一次世界大戦と第二次世界大戦の時代に戻り、高インフレと低金利が同時に起こった時代に株式がどのように推移したかを確認することが必要でしょう。
第一次世界大戦(1918年-1919年のブルマーケット)
米国が第一次世界大戦に正式に関与した1917年に、インフレは大幅に回復し始めました。
インフレ率は18%まで急上昇したものの、10年債の利率は4.5%に留まり、インフレ率は1919年まで高いままでした。
1917年後半の初の急落にもかかわらず、1918年から1919年にかけて力強いブルマーケットが見られ、ダウ工業株30種平均は史上最高値を記録。ブルマーケットは2年間で80%上昇したのです。
インフレが突然デフレになった1920年に、パーティー相場は突然の終わりを迎えました。1920年の景気後退に影響を与えた最たる関連要因は次のとおりです。
- 第一次世界大戦からの軍隊の帰還:1920年は、戦争から帰国した軍隊が職探しに苦労したため、高い失業率が特徴だった。
- スペイン風邪の復活:スペイン風邪は1919年から1920年の時期に特に過酷で、死亡率は約2倍に昇った。
- 金本位制:1920年、ドルは依然として金にリンクされていた。 マネーサプライを減らすため償還の波を予想していたので、デフレ期待は高かった。
- 金利の上昇:FRBは1919年12月から1920年6月までインフレと戦うために金利を4.75%から7%に引き上げた。
第二次世界大戦(1942-1956年のブルマーケット)
1942年から1956年にかけて、インフレが10年債利回りを大幅に上回った時期がいくつか見られます。この14年間でインフレ率は平均4%を超え、10年金利は平均2.5%でした。
一方、ダウ平均株価は年間平均+11%でした。この時期が昨今の米国株相場の状況に最も酷似する期間だと思われます。
インフレ率が10年債利回りを3年間上回っていたにもかかわらず、ダウ平均は1942年から1946年にかけて120%上昇したのです。
1947-1948年のベア相場は、市場が新たな高みに続く前は25%の後退であったため、おそらく「統合(コンソリデーション)」と呼ぶ方が適切でしょう。
1951年にインフレ率が7.9%に上昇し、10年債利回りが2.5%にとどまったにもかかわらず、マーケットは1949- 1956年からさらに230%上昇。そして1953年までに、インフレは鈍化しました。
これにより、高インフレと低金利の組み合わせは、株式市場に非常に有益であることが証明されたわけです。
この時期は、失業率が低く(1942年以降5%未満)、第二次世界大戦後の米国経済の急成長に伴う経済成長が特徴でしたね。
大インフレの嘘:FRBはインフレを抑止しない
直近の6月、FRBは2021年のPCEインフレ率を3.4%と予測。3か月後、2021年の予測を4.2%まで引き上げました。会議の1か月後、PCEインフレ率は5%に。
今年の初めに、私は「大インフレの嘘」と呼んでいるものを強調しました。FRBは現実の予測に無能であるか、もしくは意図的に誤解を招くよう差し向けているかのように思えます。
一般人の予測がFRBの予測よりも正確であった場合、何かが間違っていると思う方が自然でしょう。
私はFRBがそれほど無能であるとは思いませんし、国民より分析力がないとも思いません。
なぜ政府とFRBの両方がインフレ率を非常に高くしたいのだろうか
米国政府は大量の債務を抱えています。
GDPに占める割合として、連邦債務は現在120%超。 COVIDにかかったコストは、今日のドルベースで第二次世界大戦のコストよりも数倍高かかったのです。
- 予算の削減や増税は市民の受けがよくありません。予算削減や増税の動きは可決に向け十分な支持を得る場合もあるが、包括的な打開策については真剣に議論されていません
- さらに悪いことに、米国政府は、医療保障と社会保障の両方において巨額の債務が発生し、自ら資金を調達できないが故に、一般税基金にはるかに依存するようになるでしょう
- それでは、意味のある予算削減や増税を議論しない可能性がない二極化した国では、政府はどのようにしてそのすべての債務を返済するのだろうか。結論、返済はしないのです。
米国が最後に100%を超える債務/GDPを抱えていたのは1946年であり、2,690億ドルの巨額の債務を抱えていました。
この数字を読むだけで、何が起こったか察しがつくでしょう。
今日の米国政府にとって2,690億ドルとは、政府が利息の支払いだけに費やす金額の半分にすぎません。
米国は第二次世界大戦に対して、一度も「支払い」をしなかったことを意味します。
政府は借金を借り換え、そしてインフレを通して総債務額が増加したとしても、債務返済の重要性を認識しようとはしなかったのです。
米国政府が管理しなければならない債務と返済義務を解決する唯一の打開策は、「インフレの増大」です。
現在の債務水準が生産性水準をはるかに超えているため(つまり、GDPに対する恥ずべきほどの債務比率が発生しているため)、米国やその他の先進国は、理論的にも事実的にも、長年私たちを掘り下げてきた債務の穴から抜け出すことはほぼ不可能なのです。
過去のすべての管理ミスを修正するにはもう手遅れだと言い換えても良いでしょう。
前の世代が蓄積した債務を、若い世代に対し死に至らしめるほど課税し、75歳をゆうに超える労働力を酷使して、生産力を上げて債務を履行するということも不可能です。
政情不安をもたらすというだけでなく、単純に人口の高齢化と団塊世代が引退することによる、課税するのに十分な若者がいないということもであります。
このブラックホールのような恒常的な問題に対処する唯一の方法は、インフレしかないのです。
結論と投資戦略
パウエル議長のタカ派の話にだまされてはいけません。パウエル議長の再任指名に関する公聴会は来年1月に開催予定です。
米国債利回りは、景気後退やデフレを示しているわけではなく、FRBが債券を売却していくというタカ派の話を信頼していないということを物語っています。
私たちは今、株式市場が70年以上にわたって経験したことのないダイナミクスに直面しています。インフレ率は一定期間10年国債金利を上回り、高インフレと低金利の環境を作り出しています。
歴史的に見て、このダイナミクスは株式市場にとって非常に有益でした。今は、投資家には素晴らしい時期であり、現金を置いておくには最悪の時期とも言えます。
投資家は、高インフレの恩恵を受けると同時に、低い債券利回りの恩恵を受ける株式へのエクスポージャーを望むでしょう。
エクスポージャーとは
投資家の持つポートフォリオのうち、特定のリスクにさらされている資産の割合のこと
その上で、私は投資戦略を下記のように見込んでいます。
バリュー高配当株
現在の収益に基づいて評価され、多額の配当を支払っている株式。
高インフレ・低金利時代のように現金(金利)がその収益力を失っているとき、数年先の話ではなく今すぐ現金(配当)が欲しいと思う投資家が増えるでしょう。
Liberty All-Star Equity Fund(USA)は、バリュー戦略に重きを置いているクローズエンド型投資信託です。株式市場への幅広いエクスポージャーを獲得できます。
不動産資産を持つ企業
REITのように、不動産資産のレベルが高い企業は、理想的な選択肢になります。
低金利のおかげでコストを安く抑えることができる一方で、インフレは家賃と資産価値を押し上げます。
景気敏感株
低金利と急速な成長の組み合わせは、景気敏感株の魅力を引き上げるでしょう。
借り手にとって債務の負担が少なくなるため、デフォルト率は比較的低く抑えられ、金融システムの過剰な流動性により借り換えが容易になります。
オックスフォードレーンキャピタル(OXLC)のような12%以上の利回りの「CLO(ローン担保証券)」ファンドは、投資家に寛大な利回りを提供ながら、この環境下で躍進するでしょう。
エネルギーとコモディティ
エネルギーはしばしばインフレの波をリードします。
エネルギーとコモディティ関連の企業は、物価上昇による利益増の恩恵を得ると同時に、低金利のおかげで安価に借入れできます。
エネルギーやコモディティに投資している間も、およそ+8%の利回りを得ることができるでしょう。
待つだけでペイするので、コモディティに関しては価格変動を心配する必要は特段ないのです。
今後の展開
2022年は、株式市場にとって非常に力強い年になると考えています。
私個人としては、投資口座にキャッシュポジションは出来るだけ少なくしたり、配当金を再投資してりしています。
6.8%のような高水準のインフレは、苦労して稼いだ貯蓄(現金)の購買力を損なうことになります。
高利回りと高成長に恩恵を享受できる株式に投資することは、元本を保護するだけでなく、今日の困難な環境下で純資産を増やすことにも役立ちます。
情報に基づいた意思決定を行うには、市場に影響を与えている主要なマクロ経済要素を認識することが重要です。
私は、毎週日曜日に投資コミュニティのメンバーと共有しています。上記と同様の「市場の見通し」を作成し、全体像が進化するにつれて焦点を変更させ続けています。
これは、計画的かつ系統だった方法で、必要に応じてポートフォリオを調整するのに役立ってくれています。
【引用終わり】
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