先週(12/20~12/23)の債券の動き
先週のマーケットはクリスマス休暇に向けての薄商いの中、インフレ懸念が後退するとの楽観的な見方から債券相場は下落に転じ全体的にスティープ化しました。
スティープ化とは?
短期金利と長期金利の差が大きくなること。
一般的に右肩上がりである利回り曲線(イールドカーブ)の傾きが急(steep)になること。
先週は米国20年債の入札というイベントがあったので、入札結果から債券相場を一緒に読み解いていきましょう。
国債の入札とは?
財務省が売り手、銀行や保険会社など金融機関が買い手となり、国債を取引する金融システム。
入札結果はその国に対する信頼度を表すと言われており、債券市場や為替市場に大きな影響を与える。
米国20年債入札の結果
12月21日、米財務省は200億ドル規模の20年債入札を実施しました。
最高落札利回りは1.942%、テールはマイナス12.3BP、応札倍率は2.59倍と、過去6回入札平均の2.34倍を上回り需要は強かったとのことです。
テールとは?
国債の入札における、平均入札価格と最低落札価格との差。
この差が少ないほど国債の人気が高いことを表す。
入札については今後の記事にて解説していきたいと思いますが、今回は警戒されていた20年債入札は好調で、その良好な結果を受けて米国債相場は下げ止まり、10年債利回りは1.496%から1.475%まで低下しました。
外国の中央銀行を含む間接入札者の落札比率は64.83%で、過去6回入札平均の62%を上回り、諸外国からの投資意欲が高かったことが伺えます。
主要国の米国債保有額については前記事をご参照ください。
20年債と30年債のイールドカーブの逆転現象
前回の記事でも触れましたが、現在米国債のイールドカーブでは逆イールド現象が見られます。
逆イールドとは?
通常年限の長い順に利回りが高くなるものが、年限の短い利回りの方が長いものに比べて高くなっている現象。
債券市場では、景気後退懸念の現れだと言われている。
20年債と30年債のイールドカーブが逆転したのは今年10月28日で、1986年20年債発行が停止され、政府が2020年5月に20年債の発行を再開して以降で初めての出来事となりました。
ここで、参考になる2つのコメントをご紹介します。
シーポート・グローバル・ホールディングスのマネージング・ディレクター、トム・ディ・ガロマ氏は「20年債よりも30年債に対する強い買い意欲が見られている」とし、「20年債と30年債の利回り逆転は、利回り曲線平坦化の一環だった」と述べた
引用元:ロイター
TDセキュリティーズのグローバル金利戦略責任者プリヤ・ミスラ氏は「20年債・30年債部分の現在のカーブは、市場全般に見られるフラット化のテーマを反映したものにすぎない。中央銀行はインフレ対応を余儀なくされ、それにより成長は著しく鈍化するというものだ」と指摘。
引用元:Bloomberg
下記は米国20年債と30年債の利回りの推移と、30年債から20年債の利回りを引いた差、つまりスプレッドの2020年5月から2021年10月29日までの推移です。
ご覧の通り20年債発行再開からスプレッドは低下の一途をたどっており、今年10月28日についに0を下回りました。利回りの逆転、つまりは逆イールドが発生したのです。
10月1日以降については、30年債から20年債の利回りを引いたスプレッドと(青)10年債から2年債利回りを引いたスプレッドの比較をするため下記のグラフを筆者が作成してみました。
長短を問わずスプレッドは低下傾向にあり、イールドカーブのフラット化(平坦化)を示していることが見て取れます。10月28日以降の超長期スプレッドは依然としてマイナスベースで推移しています。
先述した通り、一般に逆イールドが見られるのは景気後退のサインだと言われており、ここから市場全体に経済成長は鈍化、長期目線での金利上昇の可能性は低いと債券市場では見られているということが伺えます。
債券(国債)のリスク
ここで、今一度初心に戻って債券のリスクを確認してみましょう。
日本証券業協会によると、債券のリスクは下記の4つです。
【債券のリスク】
- 価格変動リスク:途中で売却する場合、売却価格が当初の購入価格から下がっている可能性がある
- 信用リスク:購入した債券の発行体が破たんする可能性がある
- 為替変動リスク:換金時に為替レートの変動により為替差損が生じる可能性がある
- カントリーリスク:発行体の所在する国・地域の政治・経済環境により価格変動等が発生する可能性がある
国債に関しては、発行体は国であるのでどの年限の債券を保有しようとも、信用リスク/為替変動リスク/カントリーリスクは同じと見なしてください。
では、国債の価格変動に係るリスクとはなんでしょうか?
デュレーション(年限)リスク
通常債券は、満期までの残存期間が長い債券や利率が低い債券ほど金利の動きによる債券価格のブレが大きくなります。
逆に、残存期間が短いものや利率が高いものほど金利の動きによる債券価格のブレは小さくなります。
なぜ長期債、低利率債の方が金利変動の影響が大きいの?
価格に対する影響度合いが大きいから。
例えば、金利が1%上昇したとする。時価100円の1年債は約1円(=1%×1年)下落するのに対し、10年債は約10円(=1%×10年)下落する。同じ金利上昇幅でも、価格下落幅は長期債の方が大きい。
低利率債も同じで、金利が0.1%変動した際に、0.5%の低利率債と5.0%の高利率債とでは、金利変動が与える影響が前者の方が10倍大きい。
「デュレーション」とは、この価格感応度を年数で示したものです。
基本的には年限を長く持つことの方がリスクです。通常イールドカーブは年限の短い順から長い順に利回りが高くなります。
流動性リスク
流動性リスクとは、売買が極端に少なくなることで取引が成立せず、売りたいときに売れない可能性があるということです。
例えば、発行体の存続危機などが原因で、その発行体の出来高が極端に減少し、値がつかず売却できないという事態が起こることがあります。
2011年の東京電力の原発事故により、東京電力債の流動性が一気に低下し、顧客対応に奔走した日々を筆者は今もよく覚えています。
前記事で述べたように、国債は政府系の資金が入ってきます。毎日トレードが繰り返されており、そのトレードは日本の市場では相対取引でもマーケットを通して50億ロット(円単位の額面)で取引されています。
0.01%=1bpの世界ですが、50億円だとしたら1bp動くだけでも50万円の損益がでる世界なのです。
つまり、流動性による不確実性は低い方がいいのです。
実は20年債は流動性が低かった
先述したとおり、米国20年債は2020年5月に発行が再開された、比較的新しい商品です。
債券取引担当者にとっては慣れない、つまりは長期債の中では10年債、30年債に比べて不確実性の高い商品なのです。そのため、マーケットでも流動性は低い傾向にあります。
下記の直近の入札結果の表をご覧ください。実は20年債は30年債よりも発行額は20億ドル(約2280億円)少ないのです。
そして過去6回平均の応札倍率では20年債が一番不人気なのですが、この応札倍率の低さも比較的低い流動性の一部理由になっていると筆者は考えています。
今回20年債落札が好調だったのは、長期債が全体的にフラット化しており、30年債の利回りも低いため投資妙味が無くなり、利回りが比較的高くなっていた20年債に需要が高まったと見られます。
また、今後大きく長期債が売り離されるような局面を見込んでいないため、20年債をしばらくホールドしていても懸念が少ないと市場はみているのではないかと筆者は考えます。
まとめ
【まとめ】
- 先週は休暇前相場のため薄商いで楽観的観測も相まって全体的に債券市場はベア
- 米国20年債入札は好調だった
- 20年債と30年債の逆転現象は景気後退観測に加え、比較的流動性に劣る20年債不人気にも起因している
この度もお読みいただきありがとうございました♡
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