借金大国として名高い日本。「1200兆円を超える借金が毎年増え続けている」とメディアで騒がれているのは、もはや誰もが抱くイメージかと思います。
電車の中でも「個人向け国債」の広告を見かけることもあるくらい、投資家に限らず一般国民にとってもなじみ深い日本国債ですが、意外とその仕組みを知っている人は少ないかもしれません。
日本の株式市場の時価総額は合計で約730兆円。対して、国債の発行残高は1200兆円を超えます。毎年100兆円以上の発行が行われていることを考えると、国債市場の日本経済へのインパクトはとても大きいです。
そんな日本国債について少しでも理解を深めて頂けるきっかけになればと思い、この度、記事にしてみました。
一口に国債といっても、発行目的や商品性によって数多くの分類分けが可能で、かなり奥が深い為、なるべくシンプルに国債の仕組みについてまとめていきます。
日本国債とは
概要
国債とは、国が発行する債券です。債券関係者の間では、JGB(Japanese Government Bond)と呼びます。
法律に基づいて発行され、日本の場合は発行目的によって、『普通国債(歳入債)』と『財政投融資特別会計国債(財投債)』の大きく2つに分かれます。
※「財投債」は「財投機関債」と間違われることが多いですが、全く別物なので注意。
発行目的は違いますが、普通国債と財投債は一体として発行されているため、金融商品としては同じものです。
また、金融商品として分類すると、年限ごとに呼び方が変わったり、個人向け国債など発行方法の違いにより複数の商品に分かれます。
商品性
個人向け国債が1万円から購入が可能なのに対して、その他の国債は5万円から購入が可能。(※物価連動債や変動利付国債は最低単位10万円)
購入した額面金額に対して、年2回の利払いを受けることができます。
国債の種類
国債の種類は以下の通りです。
短期国債(短期国庫証券) | 2か月、3か月、6か月、1年 |
中期国債 | 2年、5年 |
長期国債 | 10年 |
超長期国債 | 20年、30年、40年 |
※額面を下回る価格で発行され、途中での利払いは行われず、満期時に額面金額で償還される。
※国債の一部であるが、その他の国債と分けられることもある。
年限ごとに呼び方が異なるが、特に覚えておきたいのは、10年と20年。
10年国債は長期国債と呼ばれ、一般的に長期金利と言えば新発10年国債の利回りを指します。
20年国債は超長期国債と呼ばれ、一般的に超長期金利と言えば新発20年国債の利回りを指します。
発行方法
発行方法
銘柄ごとに、月に1回、国(財務省)が発行します。(40年債は年6回)
公募入札という方法で発行され、入札には銀行や証券会社が参加します。(個人向け国債を除く)
入札のタイミングは、財務省が入札カレンダーとして入札予定日を公表しています。
回号
国債には回号と呼ばれる、発行順に付けられる通し番号のようなものが付与され、毎月ペースで発行される国債を銘柄ごとに分類しています。
回号が違えば銘柄が異なるため、仮に同じ10年国債でも償還日やクーポンは異なります。
また、回号が新しい(最も新しく発行された)国債を、『新発国債(カレント債)』と表現し、古い回号である既発債と区別します。
長期金利と呼ばれる指標は、基本的に10年のカレント債の利回りを指します。
リオープン
リオープンとは、国債の発行に際して、既発債と同一のクーポン及び利払い日・償還日を設定し、同一の回号を付与することにより、発行時からその国債を既発債と同一銘柄として取り扱う制度。
つまり、国債の入札は毎月行われますが、発行の度に新しい回号にしているわけではなく、先月入札を行った国債と同じ銘柄を、新たに追加入札(リオープン)しているのです。
そのため、例えば10年国債を発行日に購入しても、償還日までの期間が正確には10年より短いという現象が起こります。
具体的には、新規回号の入札は4、7、10、1月と四半期ペースで行われ、それ以外の月はリオープンによるものです。
※4月に入札した国債と同一銘柄を5月と6月に入札を行っています。
これを、リオープン制度と言います。
発行日前取引
ちなみに、4月入札の新回号は、償還日が3月20日です。同様に、7月発行の新回号は6月20日償還、10月は9月20日償還、1月は12月20日償還となります。
実は、新回号入札のタイミングでも、満期日までは10年より短いのです。
これは、発行日前取引(When-issued;WI取引)と言い、国債が当初の予定日に発行されることを契約の効力発生条件として発行日よりも前に約定を行い、国債の発行日以降に受け渡し決済を行う売買取引が可能なことから、入札前から取引が行われ、公募入札の日に、発行価格やクーポン等の正式な条件が決まる仕組みになっています。
また、このWI取引の価格は、入札参加者が入札当日の札入れの材料にもされます。
オンザラン・オフザラン銘柄
前述の通り、回号ごとに新発債(カレント債)と既発債に区別しますが、新発債をオンザラン銘柄、既発債をオフザラン銘柄と言います。
両者の違いは、当然回号の新しさですが、実務的には流動性に大きな違いがあります。
オンザラン銘柄(新発債)は、オフザラン銘柄(既発債)と比べて流動性が高くなります。
『新しいものと古いものでは、新しい方が人気が出そう』なのは、感覚的にも理解できるかと思います。
相場が荒れている場面では、この流動性の差によって、オンザラン銘柄の方が買いが集まりやすく、オフザラン銘柄が買われにくい状況になりやすく、利回り面でオンザラン銘柄に投資妙味が生まれることがあります。
以下をご覧ください。
20年国債179回(41年12月20日償還)と180回(42年3月20日償還)では、残存年数に3か月の違いあるにもかかわらず、残存年数の短い179回の方が利回りが高くなっています。
日本銀行との関係
国債買入
国債の発行者は国(財務省)であり、日銀ではありません。
しかしながら、日銀は国債市場において大きな影響力を有しています。
現行の金融政策では、「長短金利操作付き量的質的緩和政策」を掲げ、国内の物価が安定的に2%を維持できるまで、年間約80兆円もの国債の買入を行っています。
※現在、日本国債の最大の保有者は日銀で、発行総額の4割以上を保有。
日銀の国債買入のスケジュールは、買入日の前月末に公表されます。国債の需給関係に大きな影響を及ぼすことから、金利動向の重要な指標として注目されます。
参考:日本銀行「国債買入れ」
流動性供給入札
日銀が国債を買入を行うと、当然市中に出回る国債が減ってしまいます。
財務省は、国債の流動性を維持・向上する目的で、日銀の買入により品薄になってしまった銘柄を追加発行します。これを流動性供給入札と言い、定例の国債の入札を補完する機能があります。
日銀の買入が、国債の需給関係において大きな需要であると同時に、流動性供給入札は債券市場において供給イベントにあたり、ともに債券市場の分析において注目されています。
国債市場特別参加者制度
マーケット規模が非常に大きく、経済へのインパクトが甚大な国債市場において、流動性の維持向上や安定的消化は極めて重要です。
このために、作られた仕組みが、国債市場特別参加者制度です。プライマリーディーラー制度とも言います。
分かりやすく言えば、
『国債が世の中に出回りやすくするために、入札時に国債の購入をあらかじめ約束してくれる業者を決めて、それをノルマ化している制度です』
特別参加者にあたる金融機関は、応札責任として決められた割合以上の入札を行わなければなりません。
2022年4月の執筆時時点、国債市場特別参加者は以下の20社。
【国債市場特別参加者】
- SMBC日興証券株式会社
- 岡三証券株式会社
- クレディ・アグリコル証券会社東京支店
- クレディ・スイス証券株式会社
- ゴールドマン・サックス証券株式会社
- JPモルガン証券株式会社
- シティグループ証券株式会社
- ソシエテ・ジェネラル証券株式会社
- 大和証券株式会社
- ドイツ証券株式会社
- 東海東京証券株式会社
- 野村證券株式会社
- バークレイズ証券株式会社
- BNPパリバ証券株式会社
- BofA証券株式会社
- 株式会社みずほ銀行
- みずほ証券株式会社
- 株式会社三井住友銀行
- 三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社
- モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社
これらの金融機関により、国債市場に十分な流動性が供給されています。
経済ニュースでよく見かける、国債入札ランキングは、その会社が力を入れているだけではなく、義務的に国債を購入せざる得ない制度的な背景もあるのです。
まとめ
大まかな国債の制度や仕組みについて解説しました。
深堀すればするほど、どんどん沼にはまり、一つの記事では到底まとめきれません。
ここで触れたのは、あくまで一部分だけですが、少しでも国債の仕組みを理解すると、日銀の金融政策についても理解が深まることでしょうし、国内金利の動向に対して、より理解が深まると思います。
この記事をきっかけに、国内金利に対して少しでも興味を持って頂ける人が増えると幸いです!
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