「相場はリスクオフのムードが高まり、安全資産である円が買われている。」
こんな報道をニュースや雑誌で目にした事のある人は多いと思います。他の世界主軸通貨を見ると、スイスフランが安全資産に値します。
スイスは誰もが知る永世中立国ですね!(オーストリア、アイルランド、スウェーデンなども永世中立国です。スイスは欧州国地域内に国がありながらも、EUに属していないため、極めて特別な役割を持っています。)
スイス国立銀行が発行するスイスフランも安全通貨と言われますが、2015年の1月に起きたスイスフランショック以降は円が安全通貨の代表格に位置付けられ、現在も牽引しております。
円が安全通貨と言われる理由
では質問です。なぜ円は安全通貨の代表格を牽引できるのでしょうか?
様々な理由がありますが、代表的な理由は次の2つです。
【円が安全通貨と言われる理由】
- 実質賃金が低下しているから
- 対外純資産国だから
実質賃金が低下しているから
一つ例を挙げるなら、実質賃金の低下があります。
少し古い資料になりますが、全労連が作成した「実質賃金指数の推移と国際比較」によると、先進国の中で唯一日本だけが実質賃金が低下しているそうです。そしてその動きは今も続いています。


実質賃金の低下が円買いに繋がる理由としては、「企業が内部留保を肥やしやすい」と考えられるからです。
企業の、円を国内並びに外国有価証券に換える力が増大するので、対外資産保有国の順位を維持することに繋がるのです。
対外資産と円買いの関係については後述します。
対外純資産国だから
なぜ円が安全通貨の代表格を牽引できるのか。それは日本が世界最大の対外純資産国だからです。
対外純資産とは
日本の政府や企業、個人が外国に保有する資産から負債を差し引いたもの。
資産は政府の外貨準備高、銀行の対外融資、企業の対外投資といった額を合計。負債としては海外勢の対日投資などがあります。純資産が大きくなると、国として海外で稼ぐ力がある事の証明になる
毎年5月下旬に財務省から公開される「本邦対外資産負債残高」によると、2021年の段階で31年連続で世界最大の対外純資産国であることが証明されています。

「本邦対外資産負債残高」とは、ある時点で居住者が保有する海外の金融資産(対外資産)と、非居住者が保有する本邦の金融資産(対外負債)の残高を記録した統計です。
簡単に言うと、日本は世界で最も外貨建資産を持つ国なんです。
- 政治が役に立たなくても
- 経済が弱体化しようとも
- 政府債務が先進国中最悪の状況であっても
- 日本で大地震が起きようと
- 日本に北朝鮮がミサイルを発射させても
自国を含め、世界が窮地に陥ると円が買われます。相場では「有事の円買い」と言います。
なんだか不思議な感じですよね。自国が大変な事になればなるほど、自国通貨が買われるんですから…。
「安全通貨としての円」の地位が世界中に浸透しているのは、日本がこうした対外ポジションを世界で最も持つ事が評価されているからです。
リスクオフと円買いの関係
対外純資産が多いのは分かったけど、対外純資産って外貨ベースでしょ?
何故、市場がリスクオフになると円高に繋がるの?
このように思った人も居ると思います。
もう一度、対外資産をしっかり認識しましょう。
対外資産とは
外国株や外国債券など海外の国や企業が発行する資産ですよね。つまり日本円ではなく、外国の通貨で買われたモノ。
世界で最も外貨建資産を持つ国(政府)、日本企業、日本の投資家は自国の資産よりも海外の資産を多く持っていて、その額が世界1位という事になります。
機関投資家の代表格である銀行、保険会社を例に想像してみて欲しい。
世界のどこかで世界経済を揺るがす不祥事が起きました。もちろん日本経済にも影響が起こります。倒産する企業が増えるため、銀行は貸倒引当金を用意しなければなりません。保険会社は自殺者が増えることを想定して死亡保険金を多めに用意しておかなけてばなりません。
しかし、保有資産は対外資産が多いです。不祥事の影響で対外資産の価値は目減りを始めます。機関投資家はどうしますか?円に換えますよね。
この行動が世界1位の対外純資産国が行えばどうでしょう?円高になりませんか?その流れに連れられ、世界各国も円を買い始めればどうなるでしょうか?
超円高が起きますよね。 まとめると次のような流れです。
- 世界経済に影響を与える出来事が発生
- 大国同士の関係悪化、テロの勃発、デフォルトの発生など
- 金融機関がダメージに備える
- 銀行は貸倒引当金を、保険会社は死亡保険金を多めに用意する
- 機関投資家が円を買う
- 保有資産の多くが対外資産であるため、海外の出来事でも資産価値が減少。
- 円買いスパイラルに
- 世界1位の対外純資産国の円買いのインパクトは大きい。世界各国の(機関)投資家も円買いに。
これが世界がリスクオフになるとどうして円高になる理由です。
また、はじめに触れた実質賃金の低下は、日本が世界1位の対外純資産国としての順位を維持することに貢献しているので、ここで結びついたかと思います。
近年は、ドイツが対外資産保有額を上げてきてます。そのお話はまた別の機会に…。
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